青幻舎マガジン
写真が語ってくれること
vol.03

川内倫子展「照度 あめつち 影を見る」
2012年5月12日~7月16日
東京都写真美術館

 

 写真を見て、ああ、撮ったのはきっとあの人だな、とわかること。言葉にしにくいんだけれど、オリジナリティーとか、作家性とか、そんなふうに呼ばれているもの。もしかしたら、これまで私はそれを「アイデンティティー」と混同していたかもしれない。そんなことを考えながら、僕は彼女の話を聞いていた。

 川内倫子さん(1972年生まれ)といえば、6×6(ロクロク)が思い浮かぶ。真四角な写真。日常生活からさらりと切り取られた(ように見える)風景の断片。画面のどこかに宿る等身大の感覚が、共感を起動させる。結構ストレートに「いのちの明滅」に迫りながら、過剰にならないバランスを保っている。あえて言葉にするなら、そんな印象だった。
 それが、開催前日のギャラリートークで、「6×6で日常を被写体とするシリーズは一区切りがついた感じです」と宣言してしまうのを聞いて、ちょっとびっくり。新作「あめつち」では、4×5(シノゴ)の大判フィルムカメラを使っているそうだ。

 その理由をいくつか挙げていた。まずは「粒状性」。これはたぶん作品の大きさをどう仕上げるかというイメージとつながっている。それに「ワイド感」。風景の広がりを捉えようとすると、たしかに6×6ではトレースしにくいかもしれない。でも、へえ、と感じたのは「一番使いづらいカメラとして4×5を選んだ」という話だった。三脚を立てて、ピントを合わせて、フィルムを入れて…「儀式的なところが、(九州・阿蘇の野焼きのような)被写体と合っている感じがしたんですね」

「Ametsuchi」より

 今回の展示では、映像作品も強い印象を与えている。代名詞のようになっていた6×6を、さらりと置き去りにする感じ。

 「私はローライというカメラが好きって思ってきたけれど、いま思えばフォーマットも好きだったのかもしれないですね。縦も横も同じって言う世界観が」
 …なんて過去形で語ったりするのを聞いて、融通無碍という言葉が思い浮かんだ。しなやかに、開けっぴろげに。川内さんって、こういう人だったのかぁ、と。正直な話、今回は「写真が語ってくれること」というよりは「写真家が語ってくれたこと」というタイトルのほうがいいかもしれない。だって面白かったのだ。たとえば、こんな告白とかも。

 「ある絵を理想として狙って撮るのも、居合わせてしまうのも写真」
 どれがどっちで、という詳細な解説はなかったけれど、本展の入り口にかかっている逆光の階段(写真集「Illuminance(イルミナンス)」のカバー写真)は「偶然撮れちゃった1枚」と明かしていた。そうなのだ。計算し尽くして、何十時間も粘って、なんて話はわかりやすいけれど、じつは、苦労の量は写真の質とはまったく関係ない。

 約1メートル四方にプリントされた「イルミナンス」のシリーズが両側の壁に配された細長い小部屋を抜けると、次の展示室ではビデオ作品が上映されている。45分間の映像を2つ並べて投影しているのは「写真集の見開き」というイメージだそうだ。しばらく見ているうちに気づくけれど、じつは左右の映像は同じもの。約20分ずれてループしている。作り手も意図しない組み合わせが生じる。

 映像のそういう見せ方、あるいは編集の企図には、やはり写真家らしさが出る。「写真集もパラパラと見てもらうでしょう。一枚は一瞬なんです」。ただ、それぞれの写真をどれぐらい眺めるかは見る側に委ねられている。たとえば、このページは3秒間でお願いします、なんてわけにはいかない。「でも、映像だと、そこをコントロールできる面白さがある。もしかしたら私は写真より映像のほうが向いてるかも、と思うぐらい面白かった」

「Ametsuchi」より

 続いての展示室も小さな部屋になっていて、「ある箱のなか」と名付けられたコンタクトシートのプリントと、「イリディッセンス」と呼ばれる大きさも縦横も違う写真がちりばめられている。「自分の部屋みたいに落ち着く場所にしたかった」という空間。目を引くのは、作家の視点を追体験できるコンタクトシート。「ベタはベタで、別のもの。無意識の現れですね。(未使用カットも)セレクトしなかっただけで、ミスショットという感覚はない。面白いと思ったので(鑑賞者と)シェアしたいなと思って」。

 そんな3つの部屋を抜けて、全体の半分の面積を占める大きな部屋に出る。映像作品「影を見る」とともに新作「あめつち」が展示されている。2つの壁に巨大な映像、残りの壁に約1.4×1.8メートルの大きなプリント、中央部にライトボックス。イメージは、野焼きの炎、嘆きの壁で祈る人々、夜空と赤い光線、夜神楽…。

 その部屋で、川内さんは、自作についてこうも語っていた。作品の出発点は、かなり感覚的。そのうちにコンセプトが追いかけてくるのだと。

 「作品が自分に答えを見せてくれる」
 作家が新たに得ていく”答え”を追いかけていくのが、鑑賞の楽しみ。作品の妙味は、より強く、さらに深くなっている。

 7月1日で終わってしまったが、恵比寿のNADiff APART 3Fにあるカフェ「TRAUMARIS」で開催されていた川内倫子展「Light and Shadow」も素晴らしかった。東日本大震災の被災地で撮った、白と黒のつがいの鳩を中心にした写真とスライドショーで構成されている。見ているうちに、希有なる瞬間を作品にする手腕は大前提として、ある場所に「居合わせてしまう」ことこそ写真家の才能なのかもしれない、と思わされた。写真美術館の個展を拡充する、まるで「別室」のような展示だった。

「Illuminance」より

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