青幻舎マガジン

京都/拠点 : work & life in Kyoto
vol.03

「ことば」にまつわることを仕事にしているから
総合的に見て「詩人」です。
chori-詩人

 

この国で、「詩人」という肩書きを持つ人間はいったいどれくらいいるだろう。そのうち幾人が「詩人」として生活できているのだろう。書店の詩・短歌・俳句の棚を見れば、おのずと答えは推察できる。残念ながら、詩集は絵本ほど売れはしない。それなのに、まだ20代の若さで10年以上の詩人スキルを持つ青年がいる。彼は言う、「食えない詩人に存在意義はない」と。実はこの青年、裏千家十六代家元・千宗室氏の長男。筆名の「チョリ」は、友人へ送ったFAXに記した「千ヨリ」から定着した渾名に由来する。伝統を担う家に生まれた少年は、早々に、敷かれたレールをひょいっと跨ぎ、文化ではなく芸能の世界へ、とんっと着地した。そして迷いなく歩みはじめ、いまなお、その旅の途中にある。今回の記事のために書き下ろしてもらった詩「涙」とともに、旅先から届く葉書から知るかの如く、彼が見ている風景の一端を覗いてみようと思う。

text : 山田涼子/Photo : MATSUMURA Shina

「涙」 chori

ことばを吐くたびことばから遠ざかってゆく
ぼくの血肉
のような顔をしていたものが
人間とにんげんの緩衝地帯へとほうりだされる

ほら
あの生っ白い中空のあたりにひっかかって
接ぎ穂にもならないままふるえているのがさっきまでのぼくの愛だ
そのとなりで交通整理されているのがねじ曲がった純情だ

ことばを綴るたびことばは遠ざかってゆく
改行され、句読点を打たれ、表象する
その語彙の輪郭へも
その喚起するイメージの一隅へもぼくはお邪魔できずに
腑分けされたきり埋葬されることのない
ちっぽけな自分のかけらを呆然と見送っている

その足元へこぼれる
涙みたいなものに
ぼくはなりたい

ルーツは、「450年のすねかじり」にあり

ここでいう「すねかじり」とは、金銭的な面ではなくあくまで概念的なことだ。男、27歳。立派に独り立ちしていても、親との関係、家との繋がり……受け継がれてきた歴史と無縁ではいられない。裏千家の継嗣として6歳からお稽古をはじめた。だが、小学2年時の作文「将来の夢」で家は継がないと書いた。「抹茶が出てくると飲むし、嫌いじゃないけど道具に凝ったりはしない」彼にとって、家を継がないのか?と問われることは、「なぜスノーボードをやらないのか?」と訊かれるようなものだと言う。振り返れば、小学校の高学年で学級新聞を発行・運営したり、ディベートの授業ではあえて少数派のグループに入って相手を言い負かすことに快感を得たり。大人が造った基盤やお仕着せの役に反発し、無から有を生み出す組織づくりに興味を抱く子どもだったというから、末恐ろしい。 目立ちたいという、幼心にありがちな欲求から「詩人」を名乗ったのが中学3年のとき。好きな詩人や詩集があったわけでなく、小説は長いし、短歌・俳句は制約が多く、スポーツは苦手なチームプレイで、音楽は金や時間がかかる……といった至極明快な消去法で、手っ取り早く目立てるツールとして詩を選んだ。ノートに詩を書いては周りの人たちに見せるというアナログな手法が、高校時代にはインターネットを使った作品投稿に移行。いくつかの賞を取りはじめたことで、ただ目立ちたいという欲望が少しずつ変化していく。家柄や見た目に関係のない、作品を通しての他人からの正当かつ純粋な評価は、多感な男子高生の心を激しく揺さ振ったことだろう。積極的にオフ会へ参加し、若者たちの新しい自己表現としてのリーディングにのめり込んでいく。約3年間、様々な場所へ出向いては「バカみたいに朗読会に参加した」(★4)ことで、多くの人との出会いやネットワークを得て、世界の広がりを実感するようになる。 伝統文化から遠ざかるchoriにとって「詩人であること」は、大義名分だったのかもしれない。いや、頑ななまでの意思表示か。どんな動機だったにせよ、きっかけが何であれ、自分を解放する術を手に入れたひとりの詩人は、茶室を飛び出し、ライトの当たるステージへと辿り着く。果たして、その光の中で彼にはいったい何が見えているのだろうか。

愛を乞う、若き詩人の日々

雑誌やテレビで紹介され、詩集を出版し、関西の朗読シーンを率いてきた身であっても、詩だけを書いて暮らしているわけではない。数冊の詩集は確かに彼の懐に印税をもたらしてはくれるが、それが生活の基盤にはなり得ない。職業:旅人詩人の身分は、言い換えればそんな感じだ。ならば、「詩人」として食っていくにはどうすればいいのか。そんな質問をされる度、彼は同じ答えを返す。「飯は食えてないけど、酒は飲めてます」と。「詩人なんて生安定しないもんです」と潔く言い切り、だからこそ「多角経営で食うしかない」と朗らかに言い放つ。重ねて、「正直、食えてる/食えてないは人まかせ」と笑うのだ。稼ぐためには、詩だけにこだわらず、「ことば」に関わることなら何でもやる。彼はそれを必要なことと受け止めているのだ。 平日の昼間、詩人choriはシネコンのチケットカウンター(★5)に立つ。受付にいる間の姿勢、長時間の立ち仕事に耐え得る体力はライブに欠かせないもの。身体づくりも兼ねた仕事だ。さらには、しゃべり続けることで発生や話し言葉のバリエーションを増やすこともできる。あわよくば新規顧客層の開拓にもなるかもしれない。相手がチケットを買いに来るひとりの客であろうと、ライブを観に来てくれる大勢のファンであろうと、彼にとって「人前に立つ」という意味では大差がない。「詩やフレーズが心に残らなくても、ぼくという人間を愛してほしい」だから、彼は詩を朗読する。紙に書いて見せたりwebで発表するのではなく、声を武器に呼びかけるのだ。「あたうことなら、ぼくを好きになってくれ」と……。友情でも、好奇心でも、いっそ同情でも構わないから。 ステージに立ち、その目に映る人々は「お客さんたち」と一括りにできるものではなく、「あなた」と「あなた」と「あなた」……であり、1対10だろうが100だろうが1000だろうが、彼の心を占めるのは相手に対する興味だけ。あなたは何て名前で、何が好きで、どんな人なんだろう。バーのカウンターで偶然、隣の席になった人と問わず語りに言葉を交わすかのように。心の中で語りかけ、詩人は音としての言葉を紡ぐ。それゆえ、客層や雰囲気で事前に用意した詩の内容を全て変えてしまうことも珍しくない。choriが即興スタイルに思い入れが強いのもそのためだ。出会ってきた一人ひとりの笑顔が、彼を詩人たらしめている。その一人ひとりに対する興味を失えば、詩人choriはただの千明史になってしまうに違いない。

職業としての詩人であるために

12年に亘って詩人であり続けてきた意味を、近頃ようやく自信を持って差し出せるようになってきたのは、長くやってきたからこそ見えるビジョンやできることに気づけるようになったから。そして「いま」、やっと、開き直っている。千家に生まれたからこそ得たものがあるのだと。ヤンチャな印象の中にも見え隠れする品……それは、彼の育った環境に大きく起因していると見て間違いない。「基本、根がいい子なんで(笑)」をおどけて見せるが、そこには不可視な要因が多く潜んでいるのだ。「物心ついた頃から、父のことを『親父』や『おとん』と呼んだことはないですね。少なくとも当人に向かっては一度も言ったことがない。『家元』『若宗匠』と呼ぶのが当たり前で、大人と子どもというよりは、人と人として接するように教えられてきた。いま思うとそれが良かった」。家でのしつけ、親の人格、食事中の会話……「自分自身の経験から、中学までにどれだけ一緒に食卓を囲んだかで子どもの品格や性格は変わる」というのが彼の持論。他人に対する評価の基準としてではなく、己の境遇を是正するだけのゆとりが、彼の作品に少なからず影響を与えていることは確かだろう。 また、彼が弟分と称する小島基成氏(★6)との関係にも注目したい。「バカだし、めんどくさいけど、愛想がいいし、ホスピタリティーもある。カッコイイことへの執着もあって、めっちゃ斬り込んでいく。若さですかね(笑)」と彼が評する平成生まれの青年は詩人choriの背中を見て、彼を追っている。肩を並べるために。そういう存在が現れたこと、そういう存在に刺激を受けること。それもまた、choriにとってひとつの転機かもしれない。コンプレックス(★7)を抱えた冴えない少年だった千明史は、「ことば」を生み出し伝えることで、ミュージシャンが憧れの職業でありえるように、詩人を職業としての選択肢のひとつにしようとしている。

上 choriと空中ループとの出会いは、2004年の対バンに遡る。中でもベースの森勇太氏は、「一緒によく飲んでるヤツ」。彼が着用しているのは、choriが主催した「三条音線‐sanjo online‐」(’09年5月17日開催)のオリジナルTシャツ。

下 撮影でおじゃました寺町通にある「MORITOSHI」は、chori行きつけの酒場だ。3、4年前にふらっとビールを飲みに入ってからの縁。実はここ、森氏のご実家で、音楽関係者も多く訪れることで知られる。

京都拠点、その理由とは。

「なぜ京都か?と問われれば、京都に生まれたからと答えるしかない。あえて京都を選んだわけじゃないんです。良くも悪くも、ぼくらは一億総ブロガーの黎明期に思春期を過ごした。高校1年のときに家にパソコンがやってきて、片っ端から投稿サイトへアクセスできる環境があった。そうなると京都を出る意味を感じなかったんですよ。とはいえ、生まれるのが5年早くても遅くても東京へ出たかもしれません。東京はリーディングという分野だけで見ても、ほかの土地に比べて下地がある分(観客を)いきなり口説ける。大阪なら内輪を大事にする傾向があるものの、独特のノリは面白い。でも、やっぱり『京都ブランド』は根強くて、得してるところがあるんですよね。活かせるならそれに越したことはない。全国各地でイベントをしながら、ローカルヒーローであることの必要性も感じます。そういう面でも、京都規模って『ちょうどいい』のかも。もちろん、京都は好きですよ。京都人は好きじゃないけど(笑)。あー、でも、今年から市外に引っ越したんですけど、正直『都落ち』やなぁって……。ぼくも根っからの京都人ってことですかね(苦笑)」

★1 2006年に結成した「chori/童司」は、詩と狂言による異色のパフォーマンスユニット。’08年のヨーロッパツアーではパリ・フィレンツェ・ローマ・プレーシャにおいて、choriの紡ぎ出すカラフルな言葉の数々に童司の舞で句読点を打つことで風景を浮かび上がらせる表現様式への挑戦が高い評価を得た。

★2 「ひとりの詩人と三人の楽隊。京都からあらわれた平成のビートニクス」。2010年7月、chori・岡田康孝(コントラバス/エレクトリックアップライトベース)・アベフミヒコ(ギター)で結成。同年11月、アベフミヒコに代わってムッティー(ギター/コーラス)を迎え、ドラムスとして濱崎カズキを加えて活動を開始する。’11年5月「夏の前日」をリリース。’12年1月には待望の2nd「短篇集」もリリースされる。

★3 1947年に設立された現代詩専門の出版社「詩学社」が発刊する「詩学」において主催されていた賞。「詩学」は「現代詩手帖」(世代社、思潮社)とともに戦後の詩壇を牽引したが、’07年9月に休刊、同年10月に会社は倒産・廃業した。

★4 本人談。当時、どこのイベント会場にも現れる高校生がいる、と巷で話題になり、顔見知りになった人の車に同乗させてもらい交通費を浮かせるなど朝飯前だったとか。また、高校2年の頃には1年間の家出も経験。リーディング仲間に保証人になってもらい、風呂なしトイレ共同の家賃1万5000円のアパートで暮らした。もちろん、それだけイベントに顔を出していれば出席日数が足りなくなるのは道理で、ちゃっかり留年したのもいまとなっては笑い話。彼曰く、「うちの学校、ダブったやつほど出世してるんですよ(笑)」。

★5 新京極にある「MOVIX京都」が、choriのもうひとつのステージ。「意外と気づかれない(笑)」ほど溶け込んでいるようだが、立て板に水の如く流暢な案内文句は、choriならでは。密かなファンがいるという噂も……。(2012年2月で退職)

★6 現代詩の分野でも評価される作品は、ラップ、トースティング、朗読といった要素を織り交ぜた独自の世界観を内包する。大阪・京都を中心に、独自のポジションを築きつつある。バンド編成の「小島基成&SAT」としてライブ活動にも精力的。
kojimamotonari.blog18.fc2.com/

★7 「中2までは冴えなかった」千くん。中3で思い切って-20kgのダイエットに成功! その根性たるや、見上げたものである。ツイッターやブログでついつい自分の名前で検索をかけてしまう習性は健在なものの、近頃「他人からどう見られてようが気にならないようになった」とは本人の言。

プロフィール:
text:山田 涼子(やまだ りょうこ)
しがないモノ書き、および高校教師。様々な媒体での執筆はもちろん、テレビ番組のリサーチ、京都特集のコーディネートなども請け負いつつ、「椿屋」として展覧会やイベントの企画・運営も手がける。
「椿屋」http://tsubakiya.gozaru.jp/

Photo: MATSUMURA Shina
SOHOでデザインの仕事をしながら、写真展などの創作活動中。
「torico.」http://torico.petit.cc/

PROFILE

chori(チョリ)

詩人。1984年、西陣に生まれた生粋の京都人。中学3年の頃から「詩人」を名乗り、詩作や朗読といった活動を始める。日本全国への遠征を頻繁に行い、08年には大蔵流狂言師・茂山童司氏とのユニット(★1)でヨーロッパツアーを敢行。ライブハウス「nano」をホームベースとし、バンド編成(★2)でのパフォーマンスを主軸とした従来の詩人という枠組みに囚われない表現を追求する。これまでに佐野元春、空中ループ、mama!milk、といったミュージシャンから谷川俊太郎、俵越山(ex.越前屋俵太)、猫ひろしなどジャンルを問わず数多くのアーティストと共演。
第一回詩学最優秀新人賞受賞(★3)

【主な著書に】
・詩集「chori」(青幻舎)
・「にしむくさむらい―詩人choriの京都十二ヶ月―」(ランダムハウスジャパン)など。

http://chori.cc/

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