青幻舎マガジン

デザイナー 早川宏美

京都/拠点 : work & life in Kyoto
vol.12

自由自在なフリーハンドから
繰り出される新しいグラフィック
デザイナー 早川宏美

 

 昨年の5月、とあるイベントで壁新聞ワークショップの講師をさせてもらったときのこと。この日デザインの講師を務め、たった1日でアナログ感と大人のポップさが程よくミックスされた新聞を仕上げてくれたのが、早川宏美さんでした。

 一気に彼女のファンになり、いろいろなデザインを眺めてみれば、ウェブサイトもパンフレットも、どれも温かくて楽しくて、そして一本すっと筋が通った気持ちよさが。その絶妙なバランス感覚の理由が知りたくて、ゆるり早川さんとおしゃべりにいってきました。

text/ ヤマグチノリコ photo/松村シナ 撮影協力/コトバヨネット

限りなくアナログに近い、デジタル

 

 早川さんがデザイン事務所を経て、フリーランスとして活動をはじめたのは2012年のこと。かけ出しながら、ウェブやグラフィックなど多方面で活躍する彼女のしごとが、多くの人を惹き付ける理由。そのひとつは、デザインの中に多彩な手描きのイラストを織り込んでいることにある。

 例えば「第2回 京都 ま冬のブックハンティング」のウェブサイト(写真上)。左京区の6件の本屋さん(恵文社一乗寺店、萩書房、ガケ書房、迷子、コトバヨネット、善行堂)をつなぐ古書イベントのサイトなのだが、トップページは一枚のモノクロのイラスト、ロゴも手描き。「古本」を感じさせるモノクロの世界に、雪がしんしんと降る静かな町。でも細かく描き込まれた町(=左京区)の中は、とても暖かくて楽しそう…! そんな不思議なワクワク感を描き出しているのは、デザイナーである早川さん本人。

 ほかの彼女のデザインでも、やはりポイントはイラストにある。といっても、テイストはそれぞれ違っていて、岡山県津山市にある阿波集落「エコビレッジ あば」のウェブサイトは、染織の「型染」から影響を受けたもの。ページを開くと、薄暗い色の絵が、ゆっくりと型染めのような美しい色のグラデーションを描いていく……。かと思えば、落書きに近いようなイラストだったり、写実的な肉や料理の描写だったり。「イラストレーター」という職種の人が、常に作者の個性や特徴を全面に出していくとしたら、早川さんの場合は逆。あくまでイラストは、全体のデザインを支えるためのピースのひとつ。だからテーマによって変幻自在。とても自由なのだ。早川さんはいう。

 「デザインとイラスト、つまりデジタルとアナログ――、そのどちらでもない新しい”温度感”が出せたらと思っているんです。手で描く分、時間もかかるんですけれど(笑)。でも、昔から絵を描くのが好きだし、その分少しだけ多く何かを伝えることができるのかもしれないと思っています」

 *早川さんのしごと
 ⇒ウェブ編
 ⇒イラスト編

 

左:2013年秋に、恵文社一乗寺店がオープンした新しいイベントスペース『COTTAGE』のウェブサイトも手がけている。「古い文房具」をイメージして作ったレトロ感が魅力。カレンダーも、「グーグルカレンダー」同様の機能性を持たせながら、写真も貼れて、デザインもカスタマイズされた画期的なもの。

右:2013年5月に発行された壁新聞『五条のきさき新聞』(A2サイズ)。京都カラスマ大学の授業の一貫して生徒さんと一緒に制作したもの

 

作り手の温度が伝わる印刷物

 

 早川さんがいう「好きだから」ってなんだかいいなと思う。効率にとらわれず、じっくりと、丁寧にいいものを作ろうとすること。消費の速度が早くなっている現代では、なかなかむずかしいことだろうけれど、作り手の熱量は、たった紙きれ一枚だとしても、確実に宿るし、見る人の心を動かす。早川さんのデザインを眺めてくると、そんな気がじわじわとわいてくる。そして、ふと、手描きやレタリングを駆使し、自分のイラストで創刊号〜52号までの表紙をデザインした、伝説の『暮しの手帖』の編集長、花森安治(★1)を思い出してしまう。もちろん早川さんとはテイストも異なるし、花森氏と世代が違う彼女自身は、皆無といっていいほど意識をしていないのだけれど。でも、花森氏のデザインが私たちの心をぎゅっとつかむのと、早川さんのデザインに引き込まれるのは、なんだか似ている。それは多分「手」の力なのだろうなあと思う。

 さて、早川さんのデザインのもう一つの魅力。それはプリント媒体で早川さんが好んで用いる「アナログ風」のデザインのこと(実際はデジタル)。大まかにいうと、パソコン上でレイアウトを作成、出力したものをコピー機にかけて粗くし、スキャンしてデータとして取り込むという、まるでジーンズの「ダメージ加工」のような手法。実際は、ハサミで原稿を切り貼りしたりとさらに手が込んでいて、「そのマニアックな作業必要ですか!」と思わずツッコミたくなるほど。それはさておき、実際に刷り上がったものは、ちょっとかすれ気味の文字や、切り貼りすることで生まれた線、ざらっとした写真がなんともいい味わいになっていて、独特な味わいが生まれている。しかし一体なぜ、こんな面倒な(笑)ことを?

 「元は、2011年に開催された『きょうと小冊子セッション』というイベントでリトルプレスを作ったときに試した手法なんです。リトルプレスって、作る側が楽しんで作っている感じが出ていたり、手作り感丸出しだったり、ちょっと雑でも、妙なエネルギーがありますよね。その勢いや面白さを、デジタルで出してみたいと思ったんです。で、やっぱりこれも時間がかかるんですけれど(笑)。文字データも1回コピーしたものを画像として貼っているので、修正も大変なんです」

 それでも、そこから生まれる風合いが好きなのだ、という。この時に作った本のテーマは「食と人」。架空の食品スーパーのレシートを表紙に1枚1枚手で貼付けていて、これまたユニークな発想。ちなみに、大学時代はテキスタイルアートの勉強をしていたそうだ。グラフィックでもイラスト専攻でもないのが、興味深い。卒業制作はトイレットペーパーでコツコツと「こより」を作り、真っ白な織物を制作。どうやらこの頃から、手間を厭わず、じっくり手を動かしてるタイプだったことが想像できる。そして、これこそが既存の枠にとらわれない、彼女の自由な発想につながっているようだ。

 大学卒業後は、西陣織の会社を経て、デザイン事務所へ転職。ただしデザイナー経験がなかったことから、最初は企画・営業の担当に。そこからデザイナーへ転身するきっかけのひとつとなったのは、クライアントに企画を提案する時に、イラストを交えて手描きで書いた1枚のラフ。企画は無事通り、実際にデザインの担当もすることに。イメージを伝えたいと思い、描いたものが、「本当に伝わるんだ」と実感した瞬間だった。と当時を振り返り、「絵が描けてよかったです。描けなかったら今頃どうなっていたことやら」と、くすりと笑う。

デザイナー 早川宏美

 

デザイナー 早川宏美

 

デザイナー 早川宏美

上:2011年に開催された「きょうと小冊子セッション」に出品・販売したリトルプレス『コトバヨネット1』。

中:手書きの見出しやカラーコピーを駆使して生み出したざらつき感など、手づくり感あふれる仕上がりに。

下:この本で取材した左京区のカフェ「マニアックスター」のページ。

新しい「本」づくり

 早川さんが信頼を寄せる仕事のパートナーの一人である、古書雑貨店店主・編集ディレクターの松本伸哉さん(コトバヨネット)は、早川さんの魅力をこう語る。「手がかかったものを作っても、とにかく完成までが早いんです」と。それはデザインのスピードが、という意味ではなく、早川さんが提案するデザインは、ほかの人と比べて圧倒的に修正が少ないのだそうだ。そして、こう続ける。「それは、彼女がフリーハンドで絵が描けるから。絵が描ける人は、作りたいイメージがはっきりしていて、さらに限られた空間の中でレイアウトができる人。同時にタイポグラフィ(文字のデザイン)も自分でできる。だからバランス感覚が抜群にいいんです」。なるほど、言い得て妙。そんな彼女「直感」と「手」から生まれた、ちょっとアナログなデザインが、自然と今の時代にピタリとあうのも面白い。

 昨年、早川さんと松本さん、ガケ書房の山下賢司さん、古本・レコード屋100000tの加地猛さんの4人によって「ホホホ座」という、なんともゆるい名前の編集ユニットが始動したそうだ。そしてこの春、『わたしがカフェを始めた日』という本を出版予定だとか。内容は、京都の人気カフェの女性店主に、「カフェ(喫茶店)を始めるまで」についてインタビューしたもの。カフェ紹介本でもハウツー本でもない、新しい「カフェ」の本。目の付けどころが新鮮である(★2)。

 「100ページを越える本を手がけられることにとてもワクワクしています。どんなものになるかは、自分でも完成するまで分かりませんが、今思っているのは、作るからには普通の本にはしたくない、自分らしいデザインにしたいということ。こういうデザインなら売れそうとか、そういう考えはありません。気心の知れた人たちと好きなように作る本が、楽しいものになればいいと思っています」

 発売まであと少し。既存の枠にとらわれない、早川さんの自由なデザインが、一体どんな風に進化しているのか、ページを開くのが待ち遠しい。

デザイナー 早川宏美

左京区浄土寺にある「コトバヨネット」の店内。古書・雑貨店であり、デザイン・編集ディレクターでもある松本伸哉さんのオフィスでもある。

デザイナー 早川宏美

松本伸哉さん。

デザイナー 早川宏美

ビルの入口。レトロです。

★1 1948年に創刊され、現在まで続く家庭向け総合生活雑誌『暮しの手帖』の初代編集長であり、グラフィックデザイナー、ジャーナリスト。おかっぱ頭にスカート姿、という独自のスタイルを貫き、消費者目線のユニークな企画を次々と打ち出したほか、手描きフォントや斬新な写真、イラストを組み込んだ味のあるデザインは、今なお多くの人々に愛されている。

★2 書籍『わたしがカフェを始めた日』は、企画編集:ホホホ座、ゲスト執筆者によしもとばななさんを迎え、2014年春に発売予定(価格未定)。

京都拠点、その魅力とは

 「長野出身の私もそうですが、この町は他府県出身の人も多く、そしてなぜかいろんな土地を旅してきた人が多い町。自分のやり方で道を切りひらいて、自由に心豊かに生きている人がたくさんいる場所だと思います。だから、「人」が面白い。人見知りの私でも、お酒を飲んでちょっとカウンターの横の人と話をするだけで、何か楽しいことを考えている人と出会えたり。私は、型にはまった生き方はできないけれど、かといって臆病で自由に飛び出すこともできないタイプ。この町でいろんな人との出会いがあったことで、視野を少しづつ広げることができて、自分がしたいこと、できることが見えてきた気がします。」

プロフィール:
text:山口紀子(やまぐちのりこ)
ライター・編集者。新潟生まれ。
好奇心と向こう見ずな性格が高じ「日本の根っこ」を探るべく東京経由で京都へ。地域に根付く豊かな文化や手仕事を発掘すべく活動中。共著に『京都こっとうさんぽ』。
http://kyotosumu.jugem.jp/

Photo:松村シナ
SOHOでデザインの仕事をしながら、写真展などの創作活動中。2012年11月より「京都写真教室Tract」の講師も務めながら、日々写真の魅力を追求する。
「torico.」http://torico.petit.cc/
「Tract」http://www.tract-kyoto.com/

PROFILE

デザイナー 早川宏美

早川宏美
はやかわひろみ

1984生まれ。デザイナー。成安造形大学ファイバーアートクラス卒業。デザイン制作会社などを経て、2012年頃からゆるやかにフリーランス。左京区浄土寺の古いビルにある、書店のような雑貨屋のような、映像やデザイン制作会社のような……、いろいろなコトやモノが巻き起こる「コトバヨネット」のメンバーでもある。
http://frybird.jp
http://kotobayo.tv

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