青幻舎マガジン

いろいろデザイン代表 サノワタル

京都/拠点 : work & life in Kyoto
vol.22

ただのデザインだけに留まらない。
そこから派生するもの=生きること。
いろいろデザイン代表 サノワタル

 

 酒場で二度。最初にお会いしたときは、恥ずかしながらほろ酔いであまり印象に残っていない。その後、親しい友人と一緒にいたカウンターで再会。なんとその友人とサノさんが昔馴染みだった。紹介されたら、俄然、興味が湧いた。現金なものである。そしたら後日、私が日ごろからお世話になっているデザイン会社とタッグを組んで、何やらスクールを始めると聞き、これはもう、そういうタイミングだろうと事務所に併設されたカフェにお邪魔した。サノワタル、はたして何者か――。

text:山田涼子(椿屋)/photo: 松村シナ

仕掛け人、サノワタル。

いろいろデザイン代表 サノワタル

 「近年『つくる』だけでは対応が難しくなってきた『ものづくり』の仕事に、必要な技能や新しい考え方を教えるデザインのスクール」ができた。

明日のためのWeb構築実践講座
プロジェクトデザイン講座
プランニング/プランディング/ディレクション実践講座
いまどきの本屋の作り方講座
グラフィックデザイン実践講座
ライター講座
デザイン基礎講座
カメラ講座

 と、ひとことで「デザイン」と言っても、その内容は多彩だ。そして、それらの講座を担当する講師陣も個性的な面々が揃う。そのすべてが、サノさんのコネクションで実現したというだけで、まずはサノワタルの顔の広さが窺い知れるだろう。
 「いろいろスクール」と名付けられたこの企画、「ものづくり」の現状を少しでも良くしたいと考えるデザイン会社「フィールド」(http://www.fieldcorp.jp/)の岡田専務の想いに共感したサノさんが、縁の下の力持ちとなって共に運営しているもの。

 その専務曰く、サノワタルとは「深い人。つながりを大切にする人。情報のセンスがいい人」。たった数時間のインタビューだったが、このすべてに肯ける。そんな彼に問うてみた。「どんな人が好きですか?」と。答えは単純明快。「一緒に呑みに行ける人」。
 「仲良くない人とは呑めない。あとは、デザインの善し悪しをちゃんと言える人かな。デザインの仕事だけは、ほんと口うるさいんですよ。粘着質で。ほかのことはテキトーなのに(笑)」と、白ワイン片手に(カフェのカウンターで呑んでるカットをお願いしたら、本当にお酒が出てきた)饒舌になっていく。「嫌いな人は嫌いやし、好きな人は大好きやし。ハッキリしすぎてるんです。極端なんですよね」。では逆に、「どんな人が嫌いですか?」と訊けば、「筋の通ってない人」と一言。

 そんな彼を撮影中、写真家にサノワタルの印象をくださいとお願いしてみた。「中性っぽい、やわらかいイメージを持ってたんですが……、いざファインダー越しに見てみたら、目の鋭さに『ああ、男性なんだ』と思いました」との評。これも言い得て妙な表現だ。「なんか皆が気を遣ってくれるんですよね、それが嫌いなんですけど。恐がられるんですよ」と、「目が鋭い」と言われて反論する場面も。
 先ほどの、嫌いな人間像の話に戻れば――。「関わるからにはちゃんとしたい」という想いが常にあるから、という気がした。それは、彼が教えている大学での経験が大きく影響しているようだ。約10年、教育の現場に身を置いて、「見る目が変わりました。教えることの大切さを痛感していますよ」。それが、いろいろスクールを生み出したと言っても過言ではない。「ただつくるだけのデザインは10年後にはなくなってる。流行に捉われず、ずっと残っていく、ずっと必要とされる。そういうもののために何ができるか、何をすべきか」、サノさんは考えているのだ。

サノワタル、解体新書。

 実は今回の取材にあたり、いろいろスクールに関わっている講師の方々に、「サノワタルとは何者か?」という問いを、不躾にも全員に投げさせてもらった。答えは様々で、でもどこか一貫していて、飄々としているのに根幹もしくは軸がブレないサノさんの在り様が少し浮き彫りになった気がする。そのいくつかを紹介しよう。

仕事の場ではいつもサノさんが醸す「余裕」に救われていました。
どことなく親心を感じる笑顔が印象深いです。
ただその傍らにある抜け目なさ、鋭さも感じます。
今回、講師陣でよってたかってサノさんを解体しようとするも、いつの間にかサノさんがにやにや笑いながら自分たちを解体していた、なんてこともありそうな、油断できない何かを秘めているような気がします。
(ちのり文庫 黒田明宏さん)

正直深くは知りません。というより、深すぎて見えないんです。
笑顔の似合う人好きのする風貌と、同時に高速で回転させている思考。
図星すぎて相手が時に凹むような冗談を言う辛辣さと、それでも色々な人が何かを打ち明けたり相談したりする信頼の厚さ。
それがすべてが僕の見てきたサノさんという人物であり、同時にきっとそれもまた一部でしかないのだろうと思うのです。
(イケダコウセイさん)

サノワタルとは、茶人です。
茶目っ気がある。すぐ茶化す。茶々も入れる。
お茶も好きです。たぶん。
真意を掴ませないように会話を流し、「核心は常に恥ずかしさと隣り合わせ」という美学を持っています。たぶん。
僕はサノワタルに好感を持っています。たぶん。
(eredie2 熊野森人さん)

サノさんと一言で言うなら、これしかありません。
「やさしい」
周りに気を遣い、誰もが気の悪くならない場をつくり、気がつくとその場がサノさんのペースになっていることがよくあります。仕事や遊びも含めてとことん人をフォローする、そんな人です。
(YUYBOOKS 小野友資さん)

おつきあいしていくうちに、実はとても情熱的な人だなと感じました。シュッとして見えるけど、熱くて、泥臭いことも大好きなんだな、と。いろんな活動をされていますが、すべて「人(とのコミュニケーション)」に帰結している。人がとても好きなのだと思います。人のため、人と出会うために仕事をしているようにも思えます。だからこそ、人(周囲)をよく観察していて、小さな変化に気づくことが多い。本心はあまり話さない人ですが、いつも胸の中にいくつもの企画(野望?)を秘めている人ですね。
(米原有二さん)

彼は、何を考えてるのかよくわからないとこがあって、冗談なのか本気なのかの区別がつきにくいのだけれど、実にいろいろなことをいつも冷静に考えていて、なるほどなと感心させられることがよくあります。一つひとつの意見や行動が理に適っていて、点と点がきちっと線になっていってる感じです。一度ガッツリお仕事ご一緒したいですね。
(中島光行さん)

指導者、サノワタル。

いろいろデザイン代表 サノワタル

 法律家を目指していた青年が、ものづくりの面白さに目覚めたのはバイト先でのこと。音楽プロダクションの仕事を手伝う中で、デザインが楽しくなっていく。独学を不安に思い、1年専門学校に通った後、1年指導に関わったが、「先生になるためじゃない」という気持ちから上京。約1年後に京都の制作会社へ転職する。それが前職だ。「10年後に独立します」と宣言したのが20代半ばのこと。「実家でうだうだしてました。このままフリーでやっていくか?と考えてもいましたが……」。そんな経緯をすべて正直に話した彼が、社長からもらったのは、「いまのままだと世界が狭い。狭いフィールドでしか戦えない」という言葉。いまがあるのは、その社長との出会いがあったから。
 その会社で、いちデザイナーからディレクション側へ仕事がスライドされたことと、そのデザイン事務所が飲食店を経営していたことから、「人と人が出会う場」に魅かれていく。それは、現在のカフェ経営やイベント運営につながっている。「いろいろデザイン」として独立するタイミングで「ただ事務所をつくる気はなくて……馴染みのある場所を自転車で通りながら物件を探してたんですが、たまたまここ(松原商店街)で間口の広いスペースに出合ったんです」。

いろいろデザイン代表 サノワタル

 もとは駐車場だったというこの場所に、自分たちの手で一から事務所兼カフェを誕生させた。そして、「人と人との出会いの場をつくりたい」という想いはさらに募っていく。それが、「いろいろトーク」という交流の場を生み出した。「京都のデザイン界を知ってほしいという狙いがありました。いろんな仕事でいろんな人と関わる中で、いいなぁと思う人たちを先生に呼んで、いろんな話をしてもらう。皆もっと話を聴きたいし、知りたいって思ってるんです。ゲストがお酒を呑みだしたらいきなり本音を探り出すようなイベントでした(笑)。京都の身内贔屓な性質は嫌いじゃないけど、デザインはもっと外に向けてやるべきものだという考えがあったんです。だから、垣根なしなセッティングをしましたよ。あそことあそこは仲が悪いって言われてる人たちでも平気で呼んだりするって有名でしたから。でも、それをきっかけにゲストたちが仲良くなったりもして。なんでもやってみないと分かりませんよね」と、朗らかに笑う。
 彼の面倒見の良さは、教え子たちにも発揮される。「自分で言うのもなんですが……、すごい学生のこと見てますよ。周りがびっくりするくらい個人面談します。就職相談にものりますし、店に卒業生が来ることも珍しくない」。なるほど、カフェは人生相談やコミュニケーションの場でもあるのだ。「(お客さんに)ご近所さんが多いのも本当にうれしいですね。商店街ならではレスポンスの速さも魅力的ですし、ゆっくりできてじっくり話せる場づくりができているのもいい」。ホームでもある松原商店街でイベントを企画したこともあるサノさん。大学の授業の一環だったという。
 立命館大学ではデザインを、精華大学ではクリエイション企画を担当。とくに後者では、企画したことをアウトプットしてカタチにするという授業を行っており、「飲食店をつくる」という課題に向けて指導してきた。「まったく彼らがしたことないことでアウトプットさせたかったんです。お金についても学ばせたい。原価率の計算など、実際のお金の流れを知ることはとても大事ですから。だから、週末に店舗を借りて営業させたんです」。なんと、文化祭の模擬店が本格的になったような授業。さぞかしやりがいもあることだろう。

いろいろデザイン代表 サノワタル いろいろデザイン代表 サノワタル

 「幸か不幸か、僕が教えに行ってる大学は、有名なクリエイターの方々が先生としてたくさんいるんですね。だからどうしても、成功談が多くなる。もちろん、それも必要なことですが、僕は失敗させる授業がしたいんです。リアルに失敗することを教えるような。そういった意味では、自分のできることのみ教えているので、背伸びはしていません。ほかの先生方と違うことをしようと常に考えてますね。自分だからできることを」。そんなサノ先生を慕って、多くの学生や卒業生たちがカフェに顔を出すのも納得だ。そんな得難い体験を与えてくれる教師なんて、そういない。中には、常客とつきあうことになった子もいるとか(笑)
 「もちろん、その人(常客)には、分かってるやろなと念押しし て、ちゃんとするまでしょうもないことするなよと脅しておきました(笑)」。なんて面倒見のいい人だろう。そこには「関わるからにはちゃんとしたい」という想いがあふれている。そしてそれは学生だけに限ったことではなく、彼が人生において関わる人すべてに言えること。
 実は、インタビュー後、カフェで晩ごはんをいただいたのだが。二度目にカウンターで会ったときに、彼を紹介してくれた共通の友人に、さっそくメールを送っていたことを後で知った。翌日、報告の連絡をした際に、「サノさんから昨日ご連絡いただきましたよ」と返ってきたのだ。なんと、抜かりのない!そういうところが、一事が万事。つながりを大事にし、そのつながりで次のステップへと進んでいくサノワタルの生き方なのだろう。このご縁、細く(太くてもいい)長く、大事にしていきたいものだ。

いろいろデザイン代表 サノワタル

京都拠点、その理由とは?

 「ずっと住んでいたいなと思った場所に住んだら、その土地に関わる仕事が増えました。住んでいるからこそ、京都のデザインをどんどんしたい。京都にもいいデザイナーはいっぱいいるのに、なんで外に出すのかという憤りはあります。そういことをする京都が嫌いでもあるんです。京都が好きか?と訊かれたら、大好きで大嫌いって答えますね。京都ブランドのパワーが強すぎて、それを都合のいいときだけ使う感じが本当に嫌いなんです。ちゃんと向き合ってないんですよ、それって。“京都らしさ”なんてないと思ってるから、“今の京都”を見つめているつもりです。こんなこと言ってても、こんなにいい街はないと思うから住んでるんですけどね」

いろいろデザイン代表 サノワタル

プロフィール:
text:山田 涼子(やまだ りょうこ)
しがないモノ書きと二足の草鞋で、高校・専門学校の先生(国語科)も。様々な媒体での執筆はもちろん、テレビ番組のリサーチ、京都特集のコーディネートなども請け負う。慣れ親しんだ京都の魅力を再発見するため、ライター&イラストレーター仲間で「ことり会」を結成。自分たちの好きなものだけ詰め込んだ「ことり会だより」の編集長も務める。
「椿屋」http://tsubakiya.gozaru.jp/
「ことり会」http://kotorikai.com/

Photo:松村シナ
SOHOでデザインの仕事をしながら、写真展などの創作活動中。2012年11月より「京都写真教室Tract」の講師も務めながら、日々写真の魅力を追求する。
「torico.」http://torico.petit.cc/
「Tract」http://www.tract-kyoto.com/

PROFILE

いろいろデザイン代表 サノワタル

いろいろデザイン代表
サノワタル

1977年大阪生まれ。グラフィックデザイン・ムービー・ウェブデザインなどを中心に様々な領域のデザインや企画を手掛ける。「地域」「デザイン」「コミュニティー」をコンセプトにした活動を展開する中で、そのコンセプトを実践するひとつの形として、2008年に地域をセグメントし、情報を提供するオンラインマガジン「Refsign Magazine Kyoto」を創刊。2012年から全国から著名なクリエイターをゲストに向かえ、12ヶ月連続トークショウ&Barトークイベント「いろいろトーク」を開始。2013年4月「いろいろデザイン」設立。同年9月からデザイン事務所・飲食店・ショップの機能を融合したiroiroオープン。京都精華大学、立命館大学の非常勤講師を歴任。(公)日本グラフィックデザイナー協会会員。

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