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今から350年も前に描かれたヨハネス・フェルメール(1632- 1675)
の現存作品30数点が、ここ15年ほどの間多くの人の熱い視線を集めている。
黄金時代のオランダに活躍したフェルメールは、カラヴァジスト風の
宗教画制作を経て、新興市民の日々の営みを描く画家へと転身していった。
関心が向けられたのは、豊かさを享受する市井の女性が静かに手紙を読み、
家事にいそしみ、来客と向かい合い、音楽を楽しむ姿だった。
同じような状況に目を向けた画家は他に幾らもいたが、
フェルメールだけが、光に包まれて静まり返る空気で女性たちを
包みこんだ。(中略)
フェルメールは、女性の姿をいくしみつつも、
自分の見せたい色彩、構図、光へと見る者を誘う。
その徹底した意思が、世の雑音を呑み込み、
ひたすら絵画を見詰め、味わう愉楽を教えてくれる。
市民が自らつくり上げた社会で新たに手に入れた宝とは、
神の眼でも君主の眼でもなく、自らの眼で見ることだ。
フェルメールはそんなふうに考えていたように思える。
小林頼子(美術史家)-序文より抜粋-