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レースの勝敗に沸き返る競馬場の熱狂と歓声。
瞬間に訪れる静寂、歓喜や落胆の言葉にならない声。
共鳴の瞬間、あらゆる音声が無音化される。
個々の存在を離れた群集より放射される、微熱を帯びたアウラが響く。
精密に計算された画面は光に満ち、
幽かなざわめき、生命の息づかいを可視化するという、
視覚世界の存在そのものを根底から揺さぶろうとする革新的な試み。
私が鯉江真紀子の作品にはじめて接したのは、2001年のVOCA展審査会場においてであった。その時受けた強烈な印象は、今でも忘れない。画面いっぱいに、文字通り立錐の余地もないほど埋め盡くす人々の群、いつ、どこで、何のために集っているのか何もわからないが、大勢の群集の発する眼に見えぬ熱気、異様なエネルギー、音のないどよめきのようなものが、強く私を捉えたのである。
ーそれは、対象に付随するものではなく、個々の対象を包み込んでしまうような何か、単なる感覚の世界を越えて、深く魂に訴えかけて来るような力である。
ー 高階秀爾「鯉江真紀子の光の世界」本文より抜粋
序文:高階秀爾(美術評論家、大原美術館館長)