青幻舎マガジン

京都/拠点 : work & life in Kyoto
vol.05

笑いでいいから
仏の世界を面白く感じてもらいたい
京都仏像ガイド‐政田マリ

 

彼女にはじめて会ったのは2005年春。とあるフリーペーパーの密着取材でラジオカーに同乗し、リポーターになったばかりの彼女の仕事ぶりを間近で拝見させてもらった。そこから彼女とのつきあいが始まったのだが、仏像ガイドになってしまうほど仏像好きだとは露知らず。リポーターだけでなくDJやMC、グラフィックデザイナーや似顔絵師としても活動し、修学旅行生の観光ガイドでもあるなど、まさに十一面観音のごとき「多面体アーティスト」を名乗る彼女。そこにまさか仏像専門のガイドという新たな肩書きが加わろうとは! 度肝を抜かれるとともに、彼女が自ら案内を買って出るほど仏像の何に惹かれたのか、気になって仕方がなかった。その理由を探るため、仏像初心者の身ながら彼女の企画するツアーに参加してきた。

text : 山田涼子(やまだ りょうこ)(椿屋)/photo: 松村シナ

京都仏像ガイドへの転身

 四季折々の行事や美味しいものをリスナーに紹介するため、京都中を駆け回っていた6年間。ラジオカーリポーターの政田マリさんがインタビューしてきた人数は、延べ3000人にも及ぶ。各寺院で住職たちから直接聴く仏像の話に、彼女は魅せられた。約10年前、タイの古都スコータイで見た仏像から受けた衝撃が忘れられなかったこともある。最たるきっかけは、蝋梅で有名な「大蓮寺」(東山二条)を訪れた際に薬師如来立像が祇園社(現・八坂神社)から移されたものだと知り、驚かされたこと。知られざる秘仏を目にして、静かに興奮した。そして、ふと考える。「京都を訪れる人たちは何を求めてやって来るのか?」と。リピーターであれば専門的なことを知りたがるが、初めての人はさらっと京都を楽しみたいだろう。ならば、気軽に楽しみながらマニアックなことを紹介できる「何か」がないだろうか。――答えは「仏像」だった。
 番組で知り合った仏像に詳しいディレクターに勧められ、仏像検定のために勉強を始めたところ、「すごく好きなのでどんどん頭に入るんです。自分でもびっくりしました!」。力試しで受けた検定はA級で合格し、彼女にひとつの決心をさせる。ラジオだけに留まらない「伝え方」の実践。まずはインターネットで人を集めてガイドをやってみよう!と。この思いつきと行動力に彼女らしさが垣間見られる。そして、自分らしさを発揮できる自由度の高いところを探して行き着いたのが「まいまい京都」(★1)だった。記念すべき第一回目(2011年4月29日開催)のツアーが決まったとき、彼女は無理を承知で「大蓮寺」を目的地に選ぶ。「観光寺院ではないから…」と断られても、言葉を尽くして頼み込み、「デビュー戦はここでないとダメなんです!」と副住職を口説いた。彼女の熱意が届いて募集をかけたところ、15人の定員はあっという間に埋まり、午前と午後で2回開催することになった。参加者の中には、ラジオで「仏がカッコイイ!」と言う彼女の声を聴いていたリスナーも多く、感謝せずにはいられなかった。今までの自分の成してきたことが、今の自分を支えてくれている。何ひとつ無駄なことなんてない。手応えを得た彼女は、オリジナルのコースをつくり、ブログやTwitterで参加を募ることに。京都仏像ガイド・政田マリの誕生である。

同行したワンコイン仏像ツアーでは、デザイナーとしての技を活かした資料やルート案内も用意。仏の種類(★2)やランク、仏像を見るときの注意(★3)などが分かりやすく解説されている。

案内人としてすべきこと

 告知はインターネットのみ。「どこの誰とも知らない人へメールして、いきなり集合場所に行くって、正直リスキーですよね? だから、できるだけツアー料金は安くしたい」と彼女は言う。参加費を抑えることでハードルを低くし、ツアーの様子を写真を交えて詳しく紹介することで地道なアピールを重ねていく。過去の記事を読んで様子を見ていた人たちが少しずつ動き出し、口コミのおかげもあって、確実にファンは増えつつある。自らが提案するツアーの充実のため、何事も経験とばかりに修学旅行のガイドも請け負う。「学生たちの案内は体力勝負ですが(笑)、市バスの乗り換えは上手なりましたよ」と笑う。
 歴史的背景や経緯も十分に面白いが、「それはウィキで調べて行けばいい」。インターネットでは知りえない情報を、分かりやすく伝えることが「自分らしい」ガイドの仕方だというのだ。例えば、いっぱいある手の一本一本がエロい!と熱弁を振るったり、漫談のような一人芝居も取り入れつつ退屈させないトークで聴き手の興味を刺激したり。堅苦しさの全くない彼女のスタイルは、「仏像」が持つ小難しいイメージを欠片も抱かせない。本堂で仏像の手がいかにエロいかなんて、他のツアーではなかなか聞かないだろう。歯切れのいい言葉で紹介しながらも下品にならないのは、彼女がただ上辺だけの話をしているわけではないから。きちんと勉強し、信仰を尊重し、伝えたいことを明確に抱いているから。そんな彼女の口癖は「仏さまとご縁を結んでくださいね」。そう声をかけて、スポットごとに30分ほどの自由時間を確保する。まずは感じてください、とばかりに。最低限の知識だけを与えて、思うがままに見て歩く参加者を見守っている。質問には軽快に答え、マナー違反をさり気なく注意しながら。なぜなら「見たときに自分の見解がないと記憶に残らない」と考えているからだ。各人の感じ方を大切にしたいのは、楽しい時間を過ごしてほしいため。思い出に残る体験をしてほしいと望み、彼女は試行錯誤を繰り返す。ただ仏像を紹介するだけではない、「好きな仏像を見つける」ツアーにするために。


この日は高島屋前に集合して、御旅所(四条寺町)を経由し寺町通を北上するコース。染殿院には四条通沿いにある「林万昌堂」の店内にある参道を進んで参拝し、錦天満宮では愉快なカラクリに見入るなど、何気なく歩いている通りにある「マチナカ仏像」を巡った。

純粋に愉しむ「仏の世界」

 仏像を眺めながら、人は何を想うのだろう。正解などない。何を想ったっていいのだ。だからこそ彼女は、「目の前の仏さんに興味を持ってもらえるように」語りかける。もっと分かりやすく、近所のお姉ちゃんみたいに。「だから私のツアーに、宗教家の人は来ないでください(笑)」なんて、これまた彼女らしい。仏師がどうとか、そんな勉強はいらない。ただ純粋に愉しんでほしい。彼女の願いはそれに尽きる。「仏さんを見比べながら、どっちがタイプか?とか。不動明王に惹かれるから、自分はMかもしれん!とか(笑)」。
 手の形、立ち姿に座り姿、その表情……全てに意味がある。自由に感じた後、それらの意味を学べばまた見えてくるものが違ってくることもあるはず。ただ美しいと感じた仏像に、哀愁や寂寥を見受けるかもしれない。その悲しさや切なさの所在を追求すれば、また新たな何かに気づくかもしれない。彼女の「仏像のススメ」は、例えるならば種蒔きのよう。彼女のツアーを入口に、それぞれが仏像の魅力を求めて進み花を咲かせてくれれば……ガイド冥利ではないだろうか。
 常連組の少年は、「仮面ライダーを見ている感覚で毘沙門天を見てる(笑)」らしい。そのくせ、知識は半端ないから侮れない。ポケモンを覚えるのと仏について調べるのは、彼の中で大差ないのかもしれない。「最初はお母さんの付き添いだったのが、今では彼の知識は常連さんでも一番」なほど。少年は、ただただ、仏の世界を愉しんでいる。それは彼女にとって何よりうれしい反応だろう。そのうれしさを胸に、長年のラジオリポートで培った話術と知識と人脈を惜しみなく活用して、彼女は一人でも多くの人に喜んでもらえるコースを考える。参加者曰く、「話が面白くて、次も参加したいと思う」のだとか。そうして、仏の世界から逃れられなくなれば、彼女の思う壺である。書店で入門書なんて探してないで、京都散策のついでくらいの気持ちで、政田マリの案内に身を任せてみてはどうだろう。きっと新たな世界が広がるはず。そして、新たな縁も繋がるはず。

 

 

最年少のナオくんは4歳。マイペースに仏像を見て歩く姿は、すっかりツウ。パーフェクトの参加を誇るオジサマや、ネット検索してわざわざ東京や広島から来られた人も!

京都拠点、その魅力とは。

 「相国寺の北、下鴨神社周辺、五条大橋付近……どれも私が暮らした場所です。さすが都だった街だけあって、どこに引っ越しても歩いてすぐのところに世界遺産(★4)が!(笑)。誰に訊いても『寺といえば』京都か奈良じゃないですか? その京都でリポーターをしていたからこそのご縁がたくさんあって現在の私があります。点と点が線と線に、それが面と面へと繋がっていくのは京都ならでは。京都じゃないと、と思ってやってきた1年半でした。京都だから出来ている仕事だと痛感しています。そして、故郷である広島や東京へと出向くことが増えつつある今、それを地方でも成立させたい。仏像にスポットを当てると、日本にはもっともっと知られざるすごい仏像がたくさんあります。だからこそ、京都を本陣として全国各地を巻き込めるガイドを目指し、地元の人が地元を誇れる仏さんとの出会いを、私がナビゲートできたらいいなと思っています」

★1 京都の住民がガイドする、京都のまち歩きイベントのこと。「まいまい」とは、京ことばで「うろうろする」の意。参加費は1500円からと手軽で、各1.5~2.5kmのコースを2時間ほどかけて少人数で楽しむ。身近な目線で京都にもっと親しんでもらいたいという思いから多彩なイベントを提案中。http://www.maimai-kyoto.jp/

★2 仏の種類は、悟りを開いた「如来」、悟りを開くために修行する「菩薩」、怒りで人々を教化する「明王」、インド古来の神々である「天部」の大きく分けて4種類。天部の下に、十大弟子、羅漢、高僧などが配される。

★3 「仏像はあくまでも信仰の対象。お寺にいらっしゃる仏さまには魂が入っているため、勝手に触ったり、写真を撮ったりしないこと。また、大きな声で騒ぐのもマナー違反。できれば、帽子、手袋、サングラスなどは外して参拝するのがよい。

★4 正式には「古都京都の文化財(京都市、宇治市、大津市)」(文化遺産/1994年)。登録されている物件は、賀茂別雷神社(上賀茂神社)・賀茂御祖神社(下鴨神社)・教王護国寺(東寺)・清水寺・比叡山延暦寺・醍醐寺・仁和寺・平等院・宇治上神社・高山寺・西芳寺(苔寺)・天龍寺・鹿苑寺(金閣寺)・慈照寺(銀閣寺)・龍安寺・西本願寺・二条城の16社寺と1城で、宇治市と滋賀県大津市にも及ぶ古都京都の歴史とこの郡を成す文化財が総体的に評価されている。桂離宮・修学院離宮などを追加登録すべきという声も。





プロフィール:
text:山田 涼子(やまだ りょうこ)
しがないモノ書き、および高校教師。様々な媒体での執筆はもちろん、テレビ番組のリサーチ、京都特集のコーディネートなども請け負う。ライター&イラストレーターと「ことり会」を結成し、自分たちの好きなものだけ詰め込んだリトルプレス「ことり会だより」の編集長も務める。@kotorikai
「椿屋」http://tsubakiya.gozaru.jp/

photo: MATSUMURA Shina
SOHOでデザインの仕事をしながら、写真展などの創作活動中。8月29~9月23日まで、初の個展「ひだり眼の窓」を開催し好評を博す。カメラ講座の講師を務めるなど、日々写真の魅力を追求中。
「torico.」http://torico.petit.cc/

PROFILE

政田マリ‐Masada Mari

愛称「マリィ」。広島県出身、京都精華大学への進学を機に京都へ移住。卒業後はグラフィックデザイナーに。事務所の先輩でもあるキヨピーこと谷口キヨコに憧れ、2000年に念願のラジオDJデビューを果たす。2005年4月から2011年3月までKBS京都で ラジオカーリポーターとして活躍。取材先の寺院で仏像の魅力に触れ、虜となる。イベントMCや似顔絵師としての顔も持ちながら、2011年4月より仏像ガイドとして活動を開始。現在、京都を拠点に地元・広島では仏像講座を担当。仏像検定A級。
http://blog.livedoor.jp/masadamari/

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