青幻舎マガジン

京都/拠点 : work & life in Kyoto
vol.08

小さなカフェから、
京都に劇場文化を根づかせたい
高田伸也(カフェ・モンタージュ オーナー)

 

カフェ・モンタージュでの1時間——。
京都御苑の南にある小さな劇場「カフェ・モンタージュ」。ここで配られるモノクロの小さなフライヤーには、演目名の横にいつもこの言葉が小さく添えられている。
私はこの言葉がとても好きだ。「1時間」という時間が持つ可能性。映画ほど長くはなくて、30分ほど慌ただしくなくて、なんとなく中くらいの時間。その1時間を、ささやかな「非日常の時間」としてモンタージュで過ごしたら、ちょっぴり人生が豊かになるかもしれない。そんな「1時間の舞台」を日々自ら主催し続けているのが、オーナー 高田伸也さん。上演時間は毎回夜8:00〜。料金は2000円。そのスタイルは、潔いほどにシンプルだ。でも一体なぜ、今このような劇場を街の中につくったのだろう? 高田さんの想いを探りにいってきました。

text : 山口紀子/photo: 松村シナ

はじまりは、小さな使命感

 夷川通り柳馬場角。昔ながらののんびりとした家具屋さん通り沿いにある「カフェ・モンタージュ」。ビル1階のガラス扉を開けて、コンクリートの大きな階段をトントンと地下へ降りていくと、100歳は超えているという古いピアノが正面に置かれた約70㎡の空間が広がる。公演時の席数は40席ほど。
 こちらの特長は、場所貸しは一切行わず、すべてオーナーである高田さんがプロデュースする公演であること。クラシックコンサートに、演劇や朗読劇。2012年5月にオープンし、わずか1年の間で主催公演数60回以上。日々出演者と交渉し、演目を決めてブッキングしていく。きっと想像以上にハードなことだろう。
 劇場を開こうと思い立ったのは「京都に、日常的に一流の舞台をやっている場所がなかったから」と高田さん。「このままでは、劇場に行く人がさらに減ってしまう」と、約2年前に一念発起。現在39歳。今の音楽よりも「古い録音」が大好きな少年として育ち、音響技師を経て、現在はピアノ調律師としても活動を行う音楽畑の人。振り返ると20代中頃の4年間をヨーロッパで過ごした経験が大きな影響を与えていると言う。スイスとオーストリアに1年ずつ滞在した際、可能な限りすべての音楽会に通ったそうだ。もちろん、立ち見席など一番安い席で(300〜500円!!)。すると、だんだん立ち見席に集う人々と親しくなり「君は演劇も見るべきだよ!」と劇場に行くことを薦められ、現代演劇にもはまる生活がスタート。当時鑑賞したチケットの半券を数えたら500枚以上になったとか。
 「舞台鑑賞が日常的であるヨーロッパでは、『あの芝居を見に行く』というより、『あの劇場の主催だから見に行く』というのが多いんです。無名の新人のデビュー公演だって見に行く。それは劇場の審美眼を信じ、信頼感を持っているから。もちろんつまらなかったらブーブー文句を言うわけだけど(笑)。そうやって演じる人も磨き上げられ、見る人も目を肥やしていく。劇場が文化を育てていくんだなと実感したんです」。
 当時から、日本にもそんな「場」が必要なのかもしれない、と思っていた。「まさか、10年後に自らつくるとは思わなかったけれど」と笑う。でも、この頃から将来は劇場の運営に関わっていきたいと思うようになっていたという。

左:家具のショールームをリノベーションした空間。公演がない日は、カフェとしてオープンするほか、リハーサル日には、その様子を公開する「リハーサルカフェ」も実施。右:おいしいコーヒーを淹れてくれるのは、共に劇場を支える玉井春美さん。

モンタージュの運営スタイル

 モンタージュの公演は、毎回20時開演(日曜は15時〜)。仕事を終えたけれど、真っ直ぐ家に帰りたくない…なんて気分の夜、席さえ確保できれば、気軽に舞台鑑賞ができてしまうわけだ。これってとても新しい、そしてうれしい。
 さて、劇場運営において欠かせない料金とギャラのはなし—。
モンタージュではスポンサーを募ることはせず、お客さんからの入場料金で費用の全てをまかなうシステムをとっている。「お金はなくても、舞台のクオリティは絶対に手を抜かない」という高田さん。だから、相手にはプロオーケストラのトップ奏者や世界的に活躍するソリストなど錚々たる顔ぶれも。交渉の中では「かなり相手に理解を迫るものがある、その上での決断です」と言い切る。
 自身の経験から、従来の劇場・コンサートホールの「満席でも赤字 = スポンサーがいないと成立しない」というスタイルに違和感を感じていた。常にスポンサー探しや、お客さんを呼べる(と思われる)コンテンツ選びに四苦八苦して、「本当にやってみたい公演」は二の次になってしまう。そうしたジレンマへの挑戦。そして、「モンタージュ」という小劇場を新しい表現の実験の場として使うことで、従来の劇場へのフィードバックを狙う。
「出演者の方には『あなた自身にしかできないことを』とお願いしています。特にクラシックにありがちな『これが今観客にウケると思う』という考えは必ずしもそうとは限らないから、と」。
 音楽への造詣が深い高田さんだが、実はこけら落としを依頼したのは、京都をベースに国内外で活躍し、彼が深い信頼を寄せる劇団「地点」だ。チェーホフ、アルトーから大日本帝国憲法まで、多様なテクストが、演出家・三浦基の言語感覚と視点によって再構築された芝居は、圧倒的な熱量を放つ。近年高い注目を集める理由もそこにある。モンタージュでは、『シェイクスピア最後の悲劇(コリオレイナスより)』に始まり、幾度も上演を行ってきた。しかも2013年は、1月1日・2日と連続で『かもめ』(チェーホフ原作)を上演するという挑戦的なスケジュールを敢行。その裏にあるのは、得意の音楽だけでなく、舞台もしっかりやっていく、という彼の強い意思表明でもある(★1)

 

★1 高田さんと劇団地点の出会いは、2011年3月に遡る。東日本大震災で日本が揺れに揺れた最中、びわ湖ホールで地点の『Kappa/或小説』を観劇、衝撃を受ける。そして、同じ年の9月に京都芸術センターにて上演された『かもめ』を観劇した際に、当時はまだオープン日すら決まっていない状況の中、公演を依頼。その場で快諾してもらったという。

ある日のコンサート風景。この日は谷本華子さんの「ヴァイオリンソナタ」(写真は演奏後の谷本さん。高田さんたちがドリンクサービスの準備中をしている間に、突然バッハ作品の演奏をプレゼントしてくださった)

大きな階段は、混雑時には客席にもなるモンタージュのシンボル。家具屋さんのときは半分の大きさだったが、テナントに改装される際に今の大きさになったそう。実は、谷本さんの公演をこの階段から見ていたが、膝を抱えて聞いていると、ヴァイオリンの音色がやさしく体にしみ込んできて、なんとも心地よかった。

「日常」の劇場をつくるために

・ オーボエとチェンバロ
・ 無伴奏
・ 武満徹
・ 弦楽四重奏
・ ジョンケージ 
・ かもめ(演劇)
・ 近現代語(演劇)
・ 星の家(朗読)

 上記はこれまで、モンタージュで演じられてきた演目の一部。「なんだかむずかしそう」と思うだろうか? でも公演はたったの「1時間」。たとえ、普段クラシックや演劇に親しみがなくても、ふいに訪れてみたら、クラリネットの音色が思いがけずあたたかなこと、言葉と音楽って似ているのかも、なんてことに気づいてはっとするかもしれない。
 「クラシックというと、バッハやベートーベンなどかなり古い時代をイメージされる方が多いのですが、うちではそれに限らずいろんな時代のものをやっています。例えば、20世紀初頭の音楽などは、現在のポピュラー音楽とリアルに地続きで面白いんですよ。プーランク、ストラヴィンスキー、エリック・サティ……どれをとっても、今の僕らの気分やリズム感に近いもの、親しみがある旋律がたくさんある。こんな風に近代から遡っていくと、クラシックって遠いと思っている人でも自然に楽しめたりしますよ」。
 モンタージュでは、毎公演後、ワインやソフトドリンクなどを無料でふるまい、出演者とお客さんがふれあう時間を設けている。これもまた、舞台をより身近に感じてほしいという想いから。最近では、常連さん同士が舞台を紹介しあったり、舞台談義に花が咲いたり、という姿を見かけることがあるそう。「人が動かないことには何も始まらない」と話す高田さんにとって、とてもうれしい一歩だろう。
 ちなみに、「モンタージュ」とは、映画用語で ”視点の異なる複数のカットを組み合わせて用いる技法” を指す。例えば1人の男性が歩いているシーンがあったとしたら、カメラは彼を追うだけでなく、彼が見ているであろう青空、まどろんでいる猫、路上で繰り広げられている夫婦喧嘩などを映し出す。複数のショットが加わることで、彼や街の奥行きが映し出される。そんな「モンタージュ」を、高田さんが劇場に冠した想いとは?
 「劇場がひとつの映画作品だとしたら、主人公はここに来て下さるお客さん自身、各公演はさまざまな視点のカットだと考えているんです。つまり、誰がどの公演を見て、どれを見ないのか。ある人がもし、全く興味がなかったものを偶然見たことで、どんな感情や発見が生まれるのか。こんな風に、この場所を通じてそれぞれのストーリーを描いてくれたらうれしい」。
 そのためには、「ここに来れば心が動く何かがある、と思ってもらえる公演をつくり続けていかなくては」と続ける。劇場という「非日常」の空間を、日常的な場として育て続けること。その先にはきっと、新しい文化が根づいているに違いない。

公演ごとに作られるフライヤー。難しい説明は一切書かず、古い写真や線画などを用いて、公演内容をイメージだけでシンプルに伝えている。

入口の看板。通りからはガラス戸一枚で隔てられ、時折聞こえてくる車のクラクションや雨音も劇場の「音」として取り入れている。

京都拠点、その理由とは。

「京都には、伝統芸能からファインアートまで、さまざまな芸術が息づいている。だから劇場文化ももっと発展できる素地があると思う。舞台に限りませんが、ずっと楽しみにしていたものを鑑賞する喜びもあるけれど、意図せず偶然出会ったものが、思いがけず自分に大きな影響を与えてくれることがある。何でも情報が手に入る現代なら、その喜びはなおさらのこと。京都は学生も旅行者も多い街。何か刺激を求めて、この街を漂流している人にこそ来てほしいですね。応えられるものを用意して待っていますから」。

プロフィール:
text:山口紀子(やまぐちのりこ)
ライター・編集者。新潟生まれ。
好奇心と向こう見ずな性格が高じ「日本の根っこ」を探るべく東京経由で京都へ。地域に根付く豊かな文化や手仕事を発掘すべく活動中。共著に『京都こっとうさんぽ』。
http://kyotosumu.jugem.jp/

Photo:松村シナ(まつむらしな)
SOHOでデザインの仕事をしながら、写真展などの創作活動中。2012年11月より「京都写真教室Tract」の講師も務めながら、日々写真の魅力を追求する。
「torico.」http://torico.petit.cc/
「Tract」http://www.tract-kyoto.com/

PROFILE

嘉戸浩・かみ添(唐紙師)

高田伸也(たかだ しんや)

1974年・京都生まれ。高校卒業後、音響会社、ピアノ修理工房を経て、2003年にアンティーク楽器専門店「Pankomedia」をオープン。主にアンティークのピアノとフルートの修理に携わりながら、クラシック音楽のコンサートのプロデュースも手がける。2012年3月にカフェ・モンタージュをオープン。

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